意志を決定する力を磨くための資料


選択肢の中から選ぶ(「選択」や「意志決定」と呼ばれる)というのは、学習可能なスキルです。原理を知れば知る程に、自分がより満足の行く選択を行なう可能性が高まります。

大学は知識を教える場所としては一流かもしれません。
しかし意志決定の方法論を教える場所としては間違いなく二流以下です。

以下では、自分が進路選択、住居選択、居住エリア選択、職業選択をする上で参考になった資料を紹介します。どれも新入生全員にオススメできる良質な知識が詰まっています。

はじめに読むことを薦める本




世界一やさしい問題解決の授業:まずはこれを読んで欲しい。外資コンサルタント会社マッキンゼーで顧客企業の問題解決を手がけてきた著者が、子供向けに「問題を解決すると何が嬉しくて、どういう風に解決できるのか」を解説した本。問題解決(problem solving)という分野が存在することを知れる。最近「右脳」バージョンが出たらしいが、そちらは未読。




武器としての決断思考:論点(たとえば進路選択)を定め、それの利点と欠点を考量する方法をactionableに解説した書籍。何度も「日系企業であるXYZ社に22年新卒として入社すべきか?」という問いを立てて思考実験すれば、自分にとって重要な論点が次第に明確になってくるはずだ。




問題解決大全:上の薄い本2つで意志決定と問題解決についてなんとなく感覚を掴んだら、この本で問題解決の歴史的な全貌を知ろう。この本の最大の特徴は、「そもそも大抵の問題は解けない」「どれが現実的なコストで動きそうか知る」というそもそも論から始まり、「実は問題と原因という捉え方自体が、現実の一部をそういう枠組みとして歪曲して切り取ったものにすぎない」という俯瞰を行う。

 

そして第二章では「実際には問題と原因は相互フィードバックのシステムを作っており、根本原因は存在せず悪循環自体から脱出することが目的になる」という遥かに踏み込んだ考察を行なっている。実際、臨床心理学的なアプローチを知れば知るほど、「心理的な問題については、なぜこれで解決するのか分からないようなものが解決の糸口になる」ということは念頭に置いておいたほうがいいという感想を持つ。上記の二冊が論理的に解ける問題を対象としていたのに対し、こちらはもっと幅広い問題解決を扱っており、出典は文化人類学から、神学、政治学社会学、計算機科学にまで渡る。これだけ包括的に問題解決について網羅している類書を僕は知らない。たとえば、かつてベストセラーになった『スーパーベター』で語られた方法論はこの本で述べられる「問題への相談」の類型に過ぎない。上掲の『世界一やさしい〜』で語られたロジックツリーもこの本では37コのうちの1つに過ぎない。木を見て森を見ずにならないために、一度は通読すべき本。

リスクや不確実性に対する感覚を養う

これは金融資産の投資に関する本だが、中盤に出てくる「リスク」と「不確実性」を分ける考え方は汎用的な上に、現代においておそらくトップクラスにバランスが取れている。「バランスが取れている」というのは、特定の欲しいなにか一つを確実に手に入れることはかなわないかもしれないが(むしろ、そのような不可能なことに拘ることは避ける)、長期で見れば他の人よりほとんど確実に多くを手にすることができる、そのような安定感と超然さを持っているという意味である。このようなバランス感覚があるのとないのとでは、選べる選択肢がまるで違ってくる。

 

各話題における実践論




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How to fail at almost everything and still win big(未訳): 風刺作家Scott Adamsによる自伝。意志決定のうち、決定はしても実行が難しいタイプの事項というものがある(ダイエット、筋トレ、語学など)。それをgoalの設定ではなくsystemの導入という点で解決する、という極めて効果的なアプローチを提唱している。この本を読んだあとだと、村上春樹が『職業としての小説家』で語っている長編小説執筆のための日常(5時間執筆し、あとは走るなどして回復にあてる、を半年間繰り返す)は、一種のシステムとして解釈できる。


ゲーム開発プロジェクトマネジメント講座:自分ひとりだけならばScott Adamsのようにシステムを作れば課題は解決できるかもしれないが、現実は多くの人がメンバーとなったチームで何かを解決するということが多い。スクウェア・エニックスで数百人のチームをまとめて見事良質なゲームをこれまで作ってきたプロジェクト・マネージャーによる、どうすればプロジェクトは炎上しにくくなるのかを述べた貴重な資料。




ロジカル・プレゼンテーション:会議、プレゼンにおけるコミュニケーションの齟齬の解消法の各論。人と一緒に何かを決めるための方法論。





メンタルタフネス:用意してきたのに本番で成果が出せないというアスリートにありがちな問題の解決策を説いた良書。あるいは、ニューヨークの音楽学校では以下のような「本番での不安にどう対応するか」という授業が行われているらしい。 

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キャリアをデザインする際の3つのアプローチ :「やりたいことが見つからない」という問題を考察したニューヨーク在住の日本人の方による記事。著者がこれまで出会ってきた人たちがどのような認知を経て職業を選択してきたのかを考察しており、大変示唆深い。あなたはどれに分類されるだろうか。






選択の科学:自分があまり納得できないような他人の意志決定の論理を知る上で参考になる本。原題はThe art of choosing。著者の両親は敬虔なシク教徒であり、結婚式の当日に初めてお互いの顔を見た。結婚相手のような重大な意志決定をなぜ顔も見ずに済ませるのか。実はそこには科学的に検証できるいくつかの社会的・心理的カニズムが働いていた、ということを明らかにしている良書。他にも、「ジャムの試食コーナーを作る際に、ジャムの種類が増えるほど本当に細かなユーザーニーズにも対応できて顧客は幸せになるのか」という問題設定から、選択肢の数と幸福の関係を考察する。京都大学の学生にとっては、彼女の「砂糖入り緑茶」の話はとても興味深いでしょう。






年収は住むところで決まる:住む都市に関する意志決定を行なう際に参考になる本。同じスキルを持っている人でも、住む都市によって年収が違う、もっと言うと都市Aの高卒者は都市Bの大卒者より稼いでいるという驚くべき事実を指摘しています。地方から東京・京都・名古屋・福岡などに移った実感と比べてみて下さい。そして、それが同書内で指摘されているニューヨークやシリコンバレーと比べた場合、どこに住むべきかという意志決定はどう変わるか考えて見て下さい。