カリフォルニア州の運転免許を取得するまで


学生として渡米し、およそ2年目にしてカリフォルニア州の免許を取得した。
最初に想定していたよりはるかに辛く長い道のりだったので、
今後免許を取得する予定の同じ境遇の人に向けていくつか気づいたことを書き記しておこうと思う。
なるべく正確に記すつもりだが、ルールはコロコロ変わるし私自身が思い違いをしている可能性もあるので、疑問点があれば個々人でDMVに問い合わせてほしい。


まず運転免許を最初に取ろうと思ったころの自分に一言アドバイスするならこれだ。


運転免許の取得は思ったほど簡単ではない

私はペーパードライバーだったものの、日本で運転免許を一発で取得していたし、ネットには大量に同じような状況から免許を取得した日本人の体験談が溢れていたので、免許取得というのは片手間にサクサクと済むようなものだと思っていた。

片手間で済むのは確かなのだが、簡単かというとそうではない。実技試験で2回落ちても何ら不思議ではない、4回落ちたら流石に何かに呪われている、ぐらいの難易度であると言っていいと思う。少なくとも全員がほぼ1回で受かる日本の実技試験のようなザルでは全くない。

それにはかなり多くの理由がある。

クリティカルエラーがかなり起きやすい。実技試験は15個(!)までミスが許されるが、それとは別に、一回ミスしたらその時点で失格となるクリティカルエラーと呼ばれるミスが多種存在する。このクリティカルエラーが結構キツく、特にImproper Speed(不適切なスピード)とToo cautious(過剰注意)は練習中に誰かに言ってもらわないと、自分がそれに該当していると気づけないと思われる。州や各DMVにもよるだろうが、私が聞いた限りでは各道路の制限速度から10mph上あるいは下にズレるとその時点で失格となる。ベイエリアでは大抵の住宅街は25mphで一般道は35mphなのだが、たまにまるで一般道のような住宅街やその逆があるため、そこで勘違いをするとそれでアウトになる(その上、結構な数の制限速度サインが木に隠れている。自分が受けたサンタクララの場合、(実際のテストで走ったか全く記憶にないが)Homestead Roadにおける40mphのサインがほぼ9割木に隠れていて、しかもそこから少し走ると30mphのサインが出てくるので、こんな配置をするなんて冗談かと思った)。

交通ルールが想像以上に異なる。単に右側通行と左側通行の違いという話ではない。この方の記事にも書かれているが、赤信号でも一度停止したあとはタイミングを見て右折していいとか、そのルールに慣れたいまでも心のどこか奥底で信じられない。何なんだそのルールは。そのうえ、赤色の右矢印は「絶対に行くな」のサイン(単なる赤信号だと上記のルールでみんな進んでしまうため?)だとか、どう考えても認知に反している。極めつけは普通の赤信号に添えられたNO TURN ON REDである。この記載があると右折してはいけない…のだがそれって赤矢印と同じ意味では???なぜお前は赤矢印じゃないのだ???Youtubeで探してみたら他の州だと赤矢印の意味は違うとか出てきて頭が痛くなってきたのでこの話題はここで止める。かつ、赤信号で右折を待っている際はUターンする車に注意すべきだが、青信号になると対向車線からの左折車に注意を払う必要が生じる、また赤信号であっても独立した右折用のレーンが存在する場合は停止ではなく徐行で良くなるなど、事前にケーススタディをしておかないと、とてもじゃないが即座には判断できないケースが多すぎる。

左折するときに両車線で共有するCenter Left Turn Lanesは衝撃的ではあるが別に大して難しくないと思う。むしろ、本当に難しいのは4-Way Stopと2-Way Stopを瞬時に見分けることだと思う。ALL WAYやCROSS TRAFIC DOES NOT STOPと親切に書いてあればカンタンなのだが、それがない上に木が茂っていると泣きたくなる。この2つは停止後の操作が全く異なるため、正しく見分けないとその時点でクリティカルエラーとなる。

・一人暮らしの人は練習量が制限される。カリフォルニアで筆記試験を通ると貰える仮免許は、カリフォルニア州の免許保持者が同乗した状態でしか運転の練習を許可しない。そしてどうも国際免許証を持っていてもその制約は解除されないようで、パートナーがいる人や免許持ちのルームメイトがいる人は頼んで運転の練習に付き合ってもらうなどできるだろうが、僕のように免許持ちのルームメイトがいない人にとっては、これはかなり大きな制約となる。なお、一部の州においては国際免許証が通用する様子?

DMVのシステムは基本的に不安定。筆記試験に初めて向かった日、1時間以上待たされたあとようやく窓口の人と話せると思ったら「今日は筆記試験用のシステムがダウンしてて再開の見込みが立たない。また別の日に来なさい」と告げられた。この日は、ああ、世の中には変えようのない理不尽というものがあるのだ、と思った。こちとらエンジニアなのでヤンワリと再起動してみましたかとか別のパソコンはありませんかとかしつこく聞いてみたが、そんなものが通じるDMVではなかった。なので私は筆記試験に落ちていないにも関わらず大切な平日の午前を二回筆記試験に使った。これがアメリカのDMVクオリティである。もちろん保障や謝罪は存在しない。

・試験官ごとの特質の分散が大きい。全くこちらに人間としての興味を示さない試験官というのが居る(同時に敬意も感じられなかった)。目を一度も合わさなかったし、名前も聞かれなかった。彼ら彼女らの判断が正当であるのかどうかは僕は経験不足で判断できない。

路上で見かける車の運転が信用できないカリフォルニア州の運転ルールをきちんと学んでわかったのは、以下に普段利用しているライドシェアアプリの運転手やあるいは街で見かける車が交通ルールを守らずに運転しているか、ということだった。もちろんいくつかのルールはかなりの違反者でも守る(自身に危害が加わるため)のだが、道行く車を眺めているとすぐに違反が目につく。なので、ノイズだらけの弱教師あり学習のようなマインドセットで望まないと遵法の作法が身につかない。

近日の予約が取れない。9月の2週目ぐらいに予約して一番近くで取れたのが11月の3−4週目の月曜午前だった。どうもここにはおそらく何らかのハックがありそうなのだがついぞ調べる機会は無かった(なくてよかった)。


筆記試験について

ベイエリアではおそらく、サンノゼDMV(住所が111番地で終わるもの)が唯一、予約なしでの筆記試験を受け付けている。休日は空いておらず平日は基本8時から空いているが、水曜日だけ9時なので要注意。テック系の会社は水曜日をノーミーティングデーとしていることが多いので、このトラップが地味に痛い人もいるのではないだろうか。

実技試験の練習について

私は前述のように練習の相手を頼める相手がおらず、仕方ないのでDriving Schoolの講師に同乗をお願いすることにした。お金はかかるが、それでも日本で免許を取ったときの費用と比べれば大幅に安かった。安全には代えられない。

最初はYelpでDriving Schoolで検索して、トップに出てきたスクールに頼もうと思ったのだが、どこも人気のようで数週間待ちだった。仕方ないので2ページ目ぐらいに出てきた若干二流みたいなスクールの先生と運転練習を行なったのだが、どうもイマイチだった。いや確かに学ぶことはあるのだが、練習中に鼻歌歌ってるし、録音しておけば罵倒と解釈してもいいのでは?みたいなフィードバックを返すこともあるし、非ネイティブの英語なので説明がたまに不十分に感じるしということで、お試しで仲良く別れた。

その後は、恐らく唯一の日本語対応の運転学校ということで、あまり期待せずにJoy Driving Schoolに依頼した。これが大当たりだったGoogle Mapsの口コミでは低評価だったため警戒していたのだが、実際には期待以上の教育成果を与えてくれた。自分は2人の日本人講師に教わったのだが、どちらも完全にプロ意識に溢れている上、知識が豊富で(ワイパーが何秒ごとに動くのかすら当然のように答えていた)、議論の緻密さやトリックが僕の好みだった。そして自分の運転のどこに問題があるのか本当に常によく観察していた。右折や左折の各条件と対応、特殊な道路状況での対応など、運転がここまで奥深いものだとは全く想像もしていなかった。彼らから教わったあとはUber運転手の操作に不満を感じるようになった。


実技試験について

サンタクララDMVで受けた。10時前半の予約で、10時には現地に付き、11時半頃には結果が出ていたように思う。サンタクララDMVこのサイトでは「人が少なく道がすっきりして走行しやすい」と評されているが、私のような未熟者からすれば初心者殺しの不可解な交通ルールに満ちた魔界であった。ようつべに上がっている動画は恐らくそのサイトのパターン3を通っている動画なのだろうが、私が実技で通ったルートはこのどれでもなかった気がしてならない。なので結果的に、単にDMVの周りを(これらのルートとは関係なく)何度も何度も練習したのが功を奏したと言える。そのうちに「この道からこの小道に右折した直後のサインがいつも見にくい」とか「このサインを初見で読んで正しく運転できる人間は尊敬に値する」ということに気づくので、エピソード記憶とともに道の攻略法が掴めてきた。

あと、一度だけDMVから少し離れたところでなんとなくグルッと回っていたときがあったのだが、結構交通ルールとして共通するパーツが多くて驚いた。あんな形をした道はてっきりあそこだけだと思っていたら、すぐ近くに類似形があったのである。道というのもパターン認識なのだなあとしみじみしていた。


なお、別の州で免許取得を試みた友人はカリフォルニアと比べると比較的試験がカンタンだったらしく、もしかしたら穴場の州というのがあるのかもしれない…。


最後に

Wikipediaによると、ラウンドアバウトや一方通行などの交通ルールを制定する契機となったのは、およそ110年前のウィリアム・フェルプス・イーノ(William Phelps Eno)という人物だそうだ。ニューヨーク生まれの彼は、9歳のときに交通渋滞に巻き込まれ、「なんでこれだけの馬車しかないのに交通が進まないのだろう」という原体験を持ち、その後いくつもの交通ルールを提案したとのこと。

私にとって運転というものは、そもそも何百キロもある鉄の塊をあれだけ近距離で走らせるという発想自体が恐ろしいし、面倒でも身につけなければならないことという側面が強いものだが、それでも一方である一定の規則のもとにまあまあの秩序が保たれていることには尊敬と関心を覚える。こういう記事を読む人は、恐らく私と同じく運転にさほど興味のない(しかし生活上取らざるをえない)という人が多いだろうが、世の中には運転ルールの細部まで理解して安全な運転を行ない更には伝授する人もいるし、またもっと振り返ればそのルール自体をゼロから生み出した人も居るわけである。そう思うと、運転というものの中に存在する人類の叡智が感じられて、練習が少し面白くなるかもしれない。私は結構それでノるタイプなので、なんでこの信号はこうなっているんだろう、と考えると退屈が紛らわせた。もちろん、非合理にしか思えない標識も多いんだけどね…